嫉妬

【プレゼント】
ある時、先生の精神状態が悪かった。仕事が忙しいので髪の毛も伸び放題だと言った。
だから君の誕生日プレゼントは遅れるよ。
四月になった頃であったろうか、引っ越し用の大きな箱が一つ届いた。
開けてみると百冊近くの本であった。
大学の時に読んだやつでもう読まないから君にあげるよ。

『形見だ、大事にせーよ』と、言った。


冬になり先生は部屋の荷物を片付けだした。PCが三台あるんだけど、君ノートとデスクトップどっちがいい?
迷わずデスクトップの古いMacを選んだ。

正月に帰る時に持っていくよ。

楽しみにしていた。

すると先生のマンションに両親が迎えに来たそうだ。この時、両親の車は新型のZに変わっていた。
後部座席は先生と弟。
先生がトランクを開けると両親がデパートで買った荷物がびっしりでPCを積むスペースは無かったそうだ。先生は時間ができたら後から宅急便で送るといった。

それまで楽しみにしていなさい。

夏になり実家に帰省するのでPCを今度こそ持って行くよ。と、言った。先生はわざわざレンタカーを借りてPCを持ってきてくれた。
両親にはPCを積みたいからレンタカーで帰省すると言ったそうだ。
何かを覚悟し荷物を整理しているのだと思うと寂しくなった。


【再会】
十年振りに再会をした後、 先生との一週間は楽しかった。先生と部屋に並んで座りカメラマンだった先生に撮影してもらう。
その写真の一つにわたくしが先生の部屋の窓の外を眺めているのがある。

『夏の匂いがするね』

その時の写真を帰ってきてからプリントした。 サイズを間違い目元のアップになってしまった。そのわたくしの黒目には白いカーテンが映り込みなんとその形はハート形であった。

帰りは先生のお祖父ちゃんの車で送ってもらった。 初めて先生の助手席に座り二〜三分だけの道程であった。

別の日、一緒に帰省していた先生の弟の飲み会があるので三人で車に乗った。
その時の車は先生の父親のスカイライン。
先生の父親は若い時にドライバーをしていたらしく車はチューニングされていた。都会暮らしの先生は久しく運転をしておらず目が悪い。
出掛けしな父親に、ぶつけないでね。と、言われた。
居酒屋に弟を降ろしいつもより遠回りをして送ってくれた。
広い国道に出ると先生は一気にスピードをあげた。
恐くて掴まるわたくしをよそに先生は楽しいんでいた。
俺、東京にいる時に事故ったんだよね。

えええっ!?

大丈夫、暴走妊婦が突っ込んできたんだ。

そういう問題ではない。

このまま二人で事故ったら君嬉しいんでない? 俺と死ねて。と、冗談を言った。
先生は今、彼女と同じ名前のわたくしを乗せている。

先生はたまに言う。


『りんちゃん俺のこと大好きだもんなぁ』

わたくしは未だに先生にとってどういうポジションなのかが分からない。

【嫉妬】
先生が中学生の時に付き合っていた女子に嫉妬心はなかった気がする。 むしろいじめをするような人間にわたくし嫉妬などする人間ではない。
中学卒業と同時に離れたが先生は付き合っているつもりだったそうだ。 高校生になったある日のこと先生は彼女に電話をしてみた。
彼女いわく自然消滅という形をとっていたそうだ。
大学生になった先生は昔からの同級生で同じ大学になった女性が好みであった。 飲み会ではいつもその女性に膝枕をしてもらうのである。
この女性の悩みを朝まで聞いてあげていたぐらいの仲なのに駅のホームで会った時に女性は目をそらしたそうだ。
以来、呑みに誘われても別の同級生の男性と仲が良く俺はつまらなかったと言っていた。

もう一人同級生の女性がいる。こちらは大学生当時どうやら先生のことが好きだったようだ。

先生が大学で本を読んでいたら昼間からほろ酔いの彼女が来て呑みに誘ってきたそうだ。
友達なので普通に呑みに行くと酔ってきた彼女は家に行っていい?と、言い出したそうだ。
同じ大学になったメンバーと故郷が一緒のメンバーは先生の家に遊びに行くのが多かったので断わる理由もなかったようだ。
後に先生は、
きっと彼女は俺とやりたかった感じがした。と、言った。

ちなみにこの女性にドライブに誘われたことがある先生。
女性はもう結婚していた。
この頃にはわたくしと先生は連絡を取り合っていたので先生は言った。
あいつに誘われたんだけど、俺こぇーよ。
行き先のほうにホテルとかあるし。

それを聞いたわたくしは言った。
その時間に先生にメェルをする!!
やばそうだったら電話する!!

先生は頼むわ。と、言った。
この同級生に取られてたまるものかと思った。
もう一人同級生の女性がいる。
こちらは先生達が実家に集まった後この女性と二人っきりになったそうだ。幼馴染みだが大胆にもこの女性は先生にディープキスをしてきたそうだ。 わたくしにしたら山田詠美を読んでいるこの女性が嫌でたまらない。

先生は未だにこう言う。

いやぁ、自分の中の象徴を消すにはどうしたらいいかね。あいつが未だに夢に出てくる事がある。 ほんと、やめてほしい。

他に身体だけの関係があった人が何人か、けして多いほうではない。

その後わたくしと同じ名前の女性と付き合うことになる。 先生の弟の彼女の友達であったろうか。 六つは下であろう。 女性と呼ぶより女子の彼女を先生は大変可愛がっていたそうだ。

二人で撮影旅行に行ったり何年も付き合っていたはずだ。
たいてい若いうちは就職と同時に目先が変わり別れるものである。

先生も世の中の不条理のごとくふられた。

この女子を羨ましいと思った。 勉強を教えてもらったり、レンタカーで旅行に連れて行ってもらったりわたくしが体験していない全てを飲み込み先生をふった。

先生はかなりショックで連絡を取り合っていた頃よく彼女のことを言っていた。 わたくしから見ても先生はこのまま女性不信になると思った。


『明確な条件がある場合
それを満たせば付き合い
価値基準が変われば物足りなくなり別の人へ

明確な基準が無い場合 なんとなく付き合い

価値基準が構築されればその価値基準に合致する別の人へ

何れの場合も付き合う可能性があるなら
別れる可能性も必ず含有する』

と、言って先生は自分を納得させた。