日常

先生が住んでいたマンションからは通勤が遠回りになる。夜にメェルがきた。

どっかの馬鹿が電車に飛び込んだ。こっちにしたら帰りは遅くなるは人の迷惑を考えろってな。 そんなことは日常茶飯事である。
休日も海外向け商品のサンプルチェックに通う。仕事とマンションの行き来の生活。これにスーパーになんて寄るとまたマンションへの帰りが遠のく。
生活は疲れていた。
ある日のこと電話があり引っ越すとのことであった。荷物を整理していたのはこの為か。と、少し安堵した。
新しいマンションは会社から近くなんと九階に引っ越しをした。九という数字にわたくしはいささかか気に入らなかったが裏のマンションに弟さんも引っ越しをした。と、言った。
弟が来たら素足でフローリングを歩かれるので弟くん用にスリッパを買ってきたよ。と、写メが送られてきた。
先生が好きな赤色のスリッパ。

先生は言った。

『夜景を見ながら終わるのも悪くない』


このマンションを最期にしたいと言った。


【リウマチ】
先生がリウマチを発症してから五年は経ったであろうか。あるX'masのプレゼントにカイロを贈ったことがあった。コートのポケットに入れ手を暖めてもらうようにだ。
街で有名なリウマチ患者が通う病院に行くと、全身に病変をきたした患者がいて先生は驚いたそうだ。
歩けるわけでもなく変形した全身をやっとで車椅子に押し込んで座っていたそうだ。
先生は、俺もあーなるのかな。
女もできずひっそり死んでゆくのかな。
俺が死んだら風の噂で聞くぐらいだよ。と、言った。

どう言ってあげたらよいのか分からなかった。 考えてみると先生の母親がリウマチを患っている。聞けば先生より重症のようだが普段の生活に支障はない。
先生よりお母さんも辛いのだ。

先生が言うにはリウマチは女性に多く男性の発症率は少ないそうだ。
さらにはリウマチにも種類があるそうで先生は数少ない患者の部類に入るようだ。

先生は言った。

『俺っていつでもエリートだよな、悪い意味で』

先生は静かに煙草を吸った。

先生の指は本来しなやかでかつ男らしい指だ。わたくしが先生の絵を描いたことがあった。
指の部分は明るい兆しが見えるようにオレンジ色を使った。

あの一週間、わたくしが仕事帰りに先生の家に通った日々の夕焼けの色である。

二人で照らされた夕焼けの色である。