手紙

わたくしは先生に名刺をデザインしてもらったことがあった。大まかな色の指定をしデータを送ってもらった。二種類のデザインと文章が添えられていた。 一つの名刺には白い花がデザインされていた。先生によるとこの花には心の病を治す由来があると書いてあった。
昨年の先生の誕生日にチョーカーを創ってあげた。
トップにはレザーでシルバーコンチョを付けてあるものだ。 先生はプレゼンの日にわたくしに貰ったチョーカーを付けて会社に行った。
その頃わたくしは眠りにつき夢をみた。
先生が夢に出てきたのだが夢の中で先生は強烈な汗の匂いを発していた。以前から覚えている先生の汗の匂い。
何かが頭をかすめた。 先生に連絡をすると高熱を出していると言う。抜けられないプレゼンなので会社にいると言った。
汗の匂いは熱のせいであった。
君に貰ったチョーカーを身に付けていたからリンクしたのかな?と、言った。
わたくしの今年の誕生日は何が欲しいかと言われた。
先生に造ったチョーカーのシルバーコンチョは元はコインである。わたくしは迷わずコインのネックレスが欲しいと言った。
誕生日の後であるがプレゼントが届いた。
初めてかもしれないラッピングされたプレゼントを貰うのは。
わたくしは毎日ネックレスを身に付け先生の安否を想っている。
しかしながらこのネックレスを貰ってから何かをリンクしたことはない。
むしろ情報を発信してくれるのは先生のほうであり受けるのはわたくしのほうである。
貰ったネックレスのチェーンはとても細い。
肌身離さず就寝時も身に付けているが絶対に切れない。

強い先生のように。

恋とは好きといった感情で、
愛とは思いやりなのかもしれない。
一番好きだった当時から考えれば恋愛感情とは違う。でも単なる友情のようなものではなく同志である。

二人で弱ってはいけないといつも励まし合い明るい未来に憧れている。その想いは先生よりわたくしのほうが強いのだと思う。
わたくしには彼氏がいる。それでも毎日、頭のどこかに先生がいる。
先生がわたくしの夢をみる時には記憶の中で捏造された中学生の楽しかったであろう日々の暮らし、いわば弱っている時だと言った。

無意識という言葉は嫌いだが無意識だと先生は言った。
わたくしはそれだけの人間である。
ただ、それだけの。

先生とわたくしは時代に逆行して文通をしていた時期がある。必ずお互い五枚はびっしりと書いていた。本に関する感想だったり過去から現在までの過程、他人が読めばつまらない話かもしれない。 だが二人で一致した話題がある。
サイレントムービーを創りたいということだ。しかしながらそんな時間はなくあの日の一週間がお試し期間のようなものであった。 先生がわたくしをカメラで撮影する。
出来上がった写真にわたくしが先生の放った言葉を載せる。コラージュのような手作業である。
先生は女性を撮影していた経験があるので綺麗に撮影してくれる。その写真に余白を付けてプリントする。
今、目の前に先生からの懐かしい手紙がある。そこには、
『君はクリエーターで私もクリエイティブな職に就いていました。どちらが先に死ぬか分かりませんがコラボで何か優れた作品を残したいものですね。』
手紙の最後にはこう書かれていた。


『君がクリエーターとして花が咲きますように。』

先生とわたくしはそれぞれが濃い時間を送ってきた。
先生がふらっと終わりたい気持ちは同級生の自殺の時から始まっていたのかもしれない。と、読み返して気がついた。

先生は言う。

俺が悪くなると君が良くなるよね。

これは違うと思っている。
何故ならば同じ波長の人間だからこそ共倒れをしないようにお互いでバランスを取っていた。

わたくしの祖母が言ったことがあった。

同じ波長で相手の痛みまで感じる。

『ならばどちらかが死んだらどうなるの?』

未だに分からない。

先生は、『俺が追いつけないぐらい君は生きるのだ』と、言ったが、どちらかが死んだらどうなるのか分からない。