色彩

わたくしは高校生の時に油彩教室に通っていた。父親のおさがりの道具を持っていたといった理由からである。卒業後は趣味として描いていた。 時を同じくして先生はPCで描く仕事をしていた。わたくしは肉体労働で稼いだ給料で、カラーコーディネーターと色彩環境学を学んでいた。
趣味で描いていた絵は口コミで広がり小銭稼ぎぐらいであった。
ある時、展示会に出品した絵が評論家からかなりの駄目だしをくらった。何ヵ月もかけ出来上がった点描画。
評論家は言った。

感情が感じられない。
確かにそうかもしれない。その絵は美容室の方と打ち合わせをしいわば商業用に描いたものである。自分では気に入っていたし一番売れた。高い時はコピーでも一枚、五千円であった。その後は金銭面からクレヨン画にした。 柔らかいクレヨンで自らの指で色彩を調整する。
わたくしは点描画のほうが力作であったので前に勤めていた会社の開業祝いにプレゼントをした。
会社の名前も入れた。その後、その会社に勤めることになったのだが昨年のこと、社長夫婦はこう言った。
十年も経ったことだし違う絵を飾ろう。
わたくしの絵を外した。そこで社長の奥さんは、あなた持って帰る?と、言った。
十年以上前に開業祝いにあげたのに。
わたくしがあげたものなので断ったら社長の奥さんは丸めてゴミ箱に捨てた。
昨年の今頃の出来事である。
わたくしの絵を先生は無償に誉めてくれる。PCでは出せないカラーで俺には出来ない。君だから出せるカラーなのだよ。
先生と一緒にクレヨンで遊んだことがあった。
俺、こういうのほんとに出来ないんだよね。
先生は色々なカラーで子どもの絵のように描いてくれた。わたくしの名前を。
先日、先生は一冊の本を紹介してくれた。
その本は色彩の哲学であった。
先生いわく、色って光によって見え方が違うでしょ、その色についての本。君なら簡単だよ。

絵描きのスランプは何度も経験している。
今がまさにそうである。昨年、町役場の封筒の絵柄のデザインを依頼された。版権は役場になるので身を削って描いた絵がたった五千円であった。
わたくしは今、
色の無い世界をさ迷っている。
先生がいないと色も感じられなくなってしまった。

わたくしにとって先生は光なのである。
照らしてくれないとわたくしは真っ暗なのである。
いつか先生は言った。
二人で何か作品を残せたら良いと。

その時にわたくしは光を浴びるであろう。
死の淵をさ迷った時の様にとても鮮やかで穏やかな色彩。 できることなら同じ色を見たい。


夕焼けに照らされた二人に色は無かった。

あの時、
楽しかったが絶望の中にいたのだと思う。
夕焼けの色は強烈だった。