才能

二十五日に先生は誕生日を迎えた。
おめでたさ等は無くその日は同僚の送別会であった。次の日もお見送りの飲み会であった。
最近の先生は自分が嫌になってくるとネガティブな発想ばかりである。
わたくしが造ってあげたブックカバーに触発されたのかもしれない。
君は昔から知的好奇心のレベルが高いのと職人に向いている。と、言われた。
誕生日以降は先生のテンションは上がっている。
わたくし達はお互いを尊重しつつも且つ負けず嫌いなのである。
わたくしは先生の足許にも及ばないので先生のことを尊敬していると言ったが、

君の場合はあれだよ、 宗教みたいなもので君が思っているほど俺まともな人間じゃないよ。と、言われた。

先生が就職難であった頃わたくしは手作り料理を送っていた。
身体のバランスを崩してほしくは無いと思った理由からである。
届いた料理を先生と先生の弟さんで食べてくれたようで君は料理が美味いね、いい奥さんになるよ。 と、褒めてくれながら今はこれを食べているよ。等とメールが来た。

固くなかった?

大丈夫、美味い。

幸せだった。

男性というのは自分の母親への接し方が付き合う女性へと繋がると言われている。
先生は母親にとても優しい。だから女性にも優しい。
女性はこれを瞬時に篩にかける。
しかしながら先生の場合はハードルが高く思われ彼女ができない。
わたくしは様々な男性と付き合ってきた。
特に独創性のある人間としか付き合えない。
世界が違うのである。 才能を高め合う人間じゃないと自分が低能になる気がしてならない。
先生の才能を潰さない程度に生活してゆければと思っている。

何故ならば彼はわたくしの光であり酸素である。そんなわたくしが吐き出す二酸化炭素でもクリーンにしてくれる。

崇拝なんかではない、尊敬である。
わたくしは宗教に帰依するような人間ではない。宗教とは偶像物をただただ崇拝するといった自己の行為でありそこから己の末梢神経を刺激するものである。
生ある先生はカートコバーンでも革命家とも違う。
生き証人である。

一時期わたくしの総てであった。


『先生?りんいつまで薬を飲まないといけないの?』

『歯医者と金融機関と同じだよ、継続してずっと投与させ続けられる、それが金につながるから』

そして先生は四倍の量の薬を服用した。
先生を助けたい。わたくしの心情として、もしも先生に事故が遭ったならば、
『先生のフィルムを持って戻れないあの海に沈んでゆくであろう』

今でも貴方が総てなのかもしれない。
半分だけでもりんの保護者でいてくれてありがとう。

『もう半分は君の彼氏の役目だからな』